花火師の恋
とある蒸し暑い夏、彼は1つ決心をした
あの娘の為に存在する決心を

あの娘はまるで夜の様に不意に現れて、そして静寂の様に彼の心を奪った
だけど、あの娘は知らない街へ行く
彼の知らない街へ行っちゃう
最後の夏に僕はあなただけの為に、儚くて永久の花をあげよう
あなたが思う以上に、僕はあなたのことを毎日、毎日想っていたんだ

青年はリュックを背負い自転車をこいだ
プラットホームに程近い河川敷へ急ぐ
何一つ語ることなく彼は作業を進めた
「時間よ、止まれ。」って本気で思った
青年はほんの少しだけ水を飲み、導火線にそっと火を灯した
古びたプラットホームに訪れる列車が、あの娘を連れ去ってしまう前に
僕がたった一つ伝えたかったことは
2人が見ているのはいつも同じ空

艶やかな畦道も、優しい木陰も、
がらがらの駄菓子屋も、気の抜けたサイダーも、
路地裏の秘密基地も、無口な校舎も
淑やかな浴衣も、なけなしの恋も

どれだけ「そばにいたい。」と願ってみても、そばにもいられないことだってあるんだ
「大人になれよ。」って言われたって、男にはそうはいかない瞬間があるんだ
生涯を捧げてもかまわないほどの、声無き叫びと打ち上げ花火
月より、蛍より、どんな映画より、あなたの胸の中で永久に輝いて欲しい

とある蒸し暑い夏、花火師の青年は、世界が霞むほどの恋をしていた