Nov10
獣の咆哮  
2008年11月10日 TOM
あぁ

もう、離れられない。

愛おしい。

君の肌が、狂おしく、愛おしい。

あの温かい、つるりとした君の肌が、忘れられない。ずっと触れていたいんだ。



愛しているよ




ゆで卵。




ゆで卵が、大好きなのである。



卵には、筋肉を構成させるために重要なタンパク質が多く含まれている。

最近は、朝ゆで卵を二・三個食べ、それから軽い筋トレを行う。トムは筋肉が付きにくい身体である。だから、少しでもトレーニングが筋肉になってくれることを切望し、ゆで卵を食べ始めた。

しかしだ、もう今となっては筋肉のためというよりは、ゆで卵のために筋トレをしているといっても過言ではない。

‘手段’が‘目的’に変わってしまった、好例である。




朝、夢の波間に漂う中、目覚ましのアラームがトムを現実に引き摺り下ろす。

身体を起こし、窓の外を見ることもなく眺める。髪はぼさぼさだ。

トリートメントの行き届いた、そのサラッサラの髪を撫で付け(*注:嘘である)、ベッドから立ち上がる。そして、全裸にお気に入りのバスローブを羽織る(*注:嘘である)。頭はまだ覚醒には程遠い。しかし、この時点ですでに、頭の中では彼女の肌(*注:卵である)を思い浮かべている。



コーヒーを入れる。熱い液体を流し込み、ようやく頭が覚醒してくる。

パンをトースターにセットする。

そして、冷蔵庫を開ける。この時にはもうすでに、トムの身体はうずき始めている。

彼女(*注:卵である)を手に取り、男は静かに話しかける。

「今日も ゆでちゃうよ」

彼女は今日もその純白の肌を燦然と輝かせ、その輝きをもって語りかけてくれているかのようだ。

「ふふふ、あなたったら。本当好きな人。今日も朝から私を熱くさせるつもり?」。そんな風に聞こえるのだ。

鍋に水を入れ、そこに彼女(*注:卵である)を静かに入れる。

「きゃっ、冷たいっ。でもこの水の量、今日も絶妙だわ。あなたったらホント扱いが上手なのね。どこで覚えたのかしら、ふふふ」。そんな風に聞こえるのだ。

火をつけ、その間にパンをかじりつく。この待機時間に織り成す妄想により、男は自身の放置プレイ癖をわずかながら満足させる。

「口の減らない女だ。今日も気持ち良くなりたいなら自分で茹で上がっちゃいな、このメスゆでが」、とか考える。

しばらくすると、熱湯の中で彼女(注:卵である)がコトコトと淫靡(いんび)に踊り始める。心地よい音だ。

「あっあっ熱い、熱いわ。もう、、、もう食べ時、私もう食べ時よ。もう我慢できないのっ。だからかけて、早くかけて~、水~っ」。そんな風に聞こえてくるのだ。

「おやおや、もうこんなに熱く茹で上がっちゃったのかい。まったく悪い子だ。じゃあかけちゃうよ、水」。とか何とかつぶやきつつ、熱湯からあげた彼女(*注:卵である)に冷水を浴びせかける。

シャワーを浴び終えた彼女(*注:卵である)は、格別に美しい。

そんな彼女の姿に、自分ももはや忍耐の限界であることを男は悟る。全身ほてった彼女の服と下着(*注:殻である)を、男は荒々しく剥いてゆく。

「いやっいやっ、あなたそんなに激しくっ。もっと優しく剥いてっ」

「‘いや’という割にはずいぶん湯気が出ているじゃないか。まったくいやらしい奴だ」、というやり取りがあったりする(頭の中で)。

服を脱ぎ去った彼女は、もはや絶世の輝きを放っていると言っても過言ではない。

朝日に反射する、つるりとした彼女の肌(*注:卵である)をなめるように見つめ、男は唇で優しく愛撫する。

「そんなに見つめちゃいやっ。いやいやっ、じらさないでっ。早くっ早く~っ。あっあ~っ塩が、塩がしみる~。」

「さぁ、よく我慢できたね。じゃあ、そろそろいくよ。」

そうつぶやき、男は野獣のごとく一気に彼女(*注:卵である)をほうばる。

彼女を存分に味わった後、男は獣の咆哮をあげる。




ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅれいとぉぉぉぉっぉぉぉぉぉ!!




こうして、トムは日々筋トレに励むのである。





寝るか。
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