線香花火
瞼を閉じれば昨日のことのように
浮かびあがる
初めて二人で 行った夏祭りの日
恥ずかしそうに
浴衣で手を振り駆け寄るその姿に
胸高鳴った
こんな毎日が ずっと続くだろうと
信じていたのに

蝉の声も 髪の香りも
全部全部覚えてる

貴女と過ごした思い出達が 線香花火の火花のように
一つ一つが小さく輝いて 夏の夜風に吹かれ消えていった

暑さが和らぐ 10月の始め頃
揺らぐ想い
初めて二人が 互いに背を向けあい
口を噤む

残る熱も 重ねた時も
全部全部溶けていく

当たり前と思っていた日々が 線香花火の火種のように
唐突にその輝きを失って 暗い闇にポツリと落ちて消えた

浮かぶ月も 並ぶグラスも
全部全部割れていく

二人で過ごした小さな部屋で 線香花火の最後のように
静かに、ただ静かにこの命の 灯火を一息で吹き消した