flower
「flower」
lyrics:Orugam
Music:Orugam

これはある男が残した手記
昔の話、遠い島の詩 
そして君と僕とみんなの話
一人の少年の生きた証
少年は一人、島の畔 
生まれてすぐに彼は一人
愛するもの達を失って 
愛するものなどもういらないと

じっと見つめ続けた水平線
そこに浮かび上がるひとつの点
なにかの始まり灯す接点
運んでくるように一艘の客船
彼はその姿を目にしても
浜辺に碇が落ちても
その心を閉じたまま 
ドラマの始まり避けたまま

白い髭を生やした老人が
船から下りるのを遠めから
見ていた少年は始めてみた船に
少しばかり憧れ抱く
髭を生やした老人は
少年を見て目を丸くした
世にも哀れなその境遇を知り
「一人は悲しい」そう言った

「悲しいのは日が沈むからさ」
彼はごまかすように目を逸らし
老人の手を振り解き
船から遠ざかり背を向けた
「まるで臆病者の小鳥だね」
その一言に心が乱れ
気づくと老人の手の中に
背を向けたはずの船の中に


波の音が心地よく 人生の船が動き出したんだ
広がった青空は もっともっと広くなって
柔らかな風がそっと 優しく吹いた

数々の海を越えるうち
老人は少年をまるで我が子の
ように思うようになった
また少年も少しずつ彼を
父のように思い始め
船は街にたどり着いた
二人で暮らすその家の中は
いつも笑顔に溢れていた

ただ夕日眺めるあの日々
から彼の日常は様変わり
目まぐるしく人々と出会い
失った言葉を実らせた
その中でこれも運命の様
出会った花のような笑顔
チューリップを売るあの少女
その香りはまるで夢のようで

あの島の話や海の話
君の話、いろんなことを
夕日の海の白い浜辺で
日が沈むまで語り合った
君が笑うと嬉しくって
君が悲しいと悲しくって
少年は生まれて始めてさ
当たり前のように恋に落ちた


幸せな日々…、それは永久に
続くと思うのは一瞬で
まるで夕闇が迫るように
その時は突然訪れた
老人はある時に床に伏せ
眠るかのように天に召され
彼は涙を流すこと嫌い
空を仰ぎ悲しみを滲ませた

すべて失うことが僕はただ怖かったんだね
「泣いたって甘えたって、
 もっともっといいんだよ」って
君は僕の手を握って 暖かくて

もう愛する人を亡くすなら 
これ以上悲しみ増えるのなら
これ以上もう大切な人を
作りたくないと彼は言った
流した涙も枯れる頃
君を連れて船に乗り込んで
あの遥か彼方にある島に
ゆっくりと船は波に乗って

白波の数と同じくらいの
優しさに溢れるこの記憶を
いつしか大事に抱えていたことに
気づいたのは航海の途中
その全てがそう愛しくて
その全てがそう悲しくて
彼はまたあの島にたどり着いた
無くす事をまるで恐れるように

ボロボロになったあの小屋に
二人で戻ろうとした刹那
少女がハッと息を呑んだ
そして逆の方向、指差した
そこには一面、水色の花
情けない僕を励ますように
ささやかで、暖かで、優しくて
無き人(老人)の笑顔のようで

そのとき彼はふと気づく
思い出は悲しいものではなく
心を照らす陽だまりで
その人がいなくても残るものと
彼は迷うことなく振り返り
少女の手を強く握り
孤独に逃げないと強く誓い
船に戻るとジッと前を見た

希望の船が動き出す 果て無き道を二人を乗せて
愛されたこの記憶を もっともっと信じようって
遠く見る 横顔は 大人びていた

強く生きることの意味 僕は今分かったのかもね
あの花の喜びを もっともっと広げようって
これからも いつまでも 忘れないから

これはある男が残した手記
昔の話、遠い島の詩
その古ぼけた本を手にとって
パラパラとページをめくる
ふと読み進めた手が止まる
その本の最後のページには
「愛すべき家族、友に贈る」と
小さな文字で書かれていた