Mar11
NoirとArcturusに込めた想い~東北地方太平洋沖地震に寄せて~
2013年3月11日 Shion
今日は、少しだけ真面目な話でも。


2011年3月11日、今から二年前。日本はあの東北地方太平洋沖地震に見舞われました。
今日、きっとこういった事を話題にする人はすごく多いと思うし、そういう意味でも、音楽家としての僕がこういう内容を書くべきなのか、否かすごく迷った部分ではあるのだけど…。

あの日を決して、忘れない事。
そんな想いで歌詞を書いたからこそ、今日これは書いておかなきゃいけないと思った。



僕はずっと都内に住んでいるんだけど、あの日の事はやはり忘れられません。
自宅で作業中に、急に揺れ始めて、机の上のものや本棚、CD棚から物が次々と落ちる。
あんな地震を経験した事はありませんでした。僕の家の周りは電気も止まって、なんだか日本全体にすごい事が起きている…と漠然と思っていました。

電気が復活して、ニュースが観られるようになってから、本当に、すごい事が起こってしまったんだと知った、あの衝撃も、忘れられません。




NoirはClef Dollで初めて僕が歌詞を書いた曲です。
この曲は、あの震災の時分にニュースで観た、ある出来事がモチーフとなっています。
本来、このような事は口に出すべきではないのかも知れません。
僕は、復興支援だとかそういった大きな事を言える人間でもなければ、何かが出来るほど立派な人間でもありません。

けれど、同じ日本人として、あの日、日本という場所にいた人間として、決してあの日の出来事を忘れない事。
それが、大切なんじゃないかと思っています。それを、心に刻みつけようと思い、あの歌詞の制作に入りました。

当時、地震の直後、僕が当時組んでいたバンドメンバーの安否がなかなか確認出来なかったり、友人のご家族が仙台にいて連絡が取れなかったり、という事態がたくさんありました。
僕の古い友人も仙台に住んでいて、しばらく連絡が取れなかったりもしました。

地震の直後一週間ほどは、都内にいる僕等も、毎日を不安と闘いながら過ごしていた気がします。
僕自身もそうでした。
当時、バンドメンバーの多くは千葉に住んでいたのですが、千葉はあの前後かなり揺れていました。
そのたびに、不安が襲ってしょうがなかったのを今でも覚えています。


そんな時に飛び込んできた一つのニュース。
ある人のインタビューでした。

それを観て、
「僕はもしも津波が迫り来る中を、自分の大切な人と逃げていたとして、
愛する人の手を離さずにいられるだろうか?」
と考えました。

僕の手は、きっと離れてしまう。そう、思ってしまったんです。
この手を、きっと離してしまうと。

それはとても恐ろしい想像だったけれど、きっと僕は、最後まで手を握り続ける事が出来ない、と。
Noirは、まさにそういう楽曲なんです。


人は、生きるのに毎日必死です。
どんな時だって、自分の生を全うするのに、必死に、必死に生きています。
人は本来、自分自身すら、守る事の出来ない、弱い存在だと思います。
それでも、愛する人だったり、大切な人だったり、両手じゃ抱えきれないほど多くのものを持とうとして、そうやって生きて往きます。
どんな時も、それを壊さずに、守り続けて、生きて往けるのか…。

僕は、きっと弱い人間なのだと思います。
そんな事を想いながら、この歌詞を書き、そして歌いました。
恐ろしい想像と恐怖を、歌にしました。


Arcturusはそれから一年が経って、そこから一歩進んだ、その当時の自分の想いを重ねながら書いた歌詞です。
この二曲は物語としてももちろん関連があるのだけど、僕の心情的な部分でも、続いているのだと思います。

僕は歌詞を書くとき、ただただ一つだけの、一番大切なフレーズを決めて制作に入ります。
それは、物語性やテーマ性とかにも関係なく、僕自身が、その歌詞の中で一番言いたい事、と言うのを1フレーズに必ず込めます。

このArcturusの歌詞で言えば、

「犠牲の緋に染められた救いはいらない」

このフレーズを中心に作り上げていきました。


僕達は物語音楽創作集団として、ファンタジックな世界観だったり、物語性の強い音楽に台詞や語りなども入れて表現しています。
けれど、その物語の裏側で、作詞や作曲をする僕達自身の、そして、誰の心の内側にもある想いを表現できたら、と、そう僕は思っています。


この物語も、別に震災の事を意識して聴いてもらう必要は何もなくて。
ただ、あの日の記憶を、決して忘れない事。
実際に被災地の人間ではないから、僕には何も言えないし、何も理解できない。
自分以外の人の本当の意味での苦しみを、理解した、なんて決して言えませんし、言いたくもありません。

復興支援ソングってものも、正直僕はあまり好きになれなくて。
僕はきっと、心がそんなに広くないし、理解力にも乏しいからだと思う。
僕には、そういう歌は書けない。
そして、そういう歌が、なんだか安全なところから歌っている絵空事に聴こえてしまう。

そんな歌ばかりじゃないのも、そんな想いで歌ってる人ばかりじゃないのも、わかってはいるんですけどね苦笑



それでも、あの日そこにあった出来事を忘れない事。自分自身も確かに恐怖や焦りを感じ、大切な人たちの安否に心を悩ませた事。
それを、決して忘れない、忘れたくない、という想いをこめて、この曲たちの物語を創造しました。

どうか一年に一度でも良い。
みんなにもあの日の記憶を忘れないでいてほしいと思います。


満天の星空が、誰の目にも映って、その輝きが、誰の下にも平等に降り注ぎますように。
願いと、希望を込めて、僕は歌ってます。
こんな言葉だってきっと綺麗事かも知れないけど、歌ってます。


「固く結んだ手は未来を求めて
あの日そこにあったはずの希望を胸に狼煙を上げたんだ」



この想いが、どうか届きますように。


Clef Doll
Shion
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