Jul20
ライナーノーツ
2006年7月20日 岡村詩野
 ある日、on button down/スペースカンフーマンの小林ハジメから唐突にメールが来た。「今度、Emileというバンドのアルバムが出るんですけど、ちょっと聴いてもらえませんか」。話を聞くとどうやら小林がかなり入れ込んでいるらしく、早速送ってもらった作品を聴いてみると、なるほど確かに一見ジャンクだけどどうしようもなく愛しいポップ・センスが全開したそのサウンドは、BPの時代から現在に至るまで、一貫してガレージっぽさとキッチュなポップ・ミュージックを好む小林が気に入りるだけのものはある。というより、こりゃまるで小林がやりそうなバンドじゃんかと思ってしまった。
 手元に届けられたオフィシャル・プロフィールによると、EmileのメンバーはH×J×M Emile、Chigilla Emile、Non Emile、T.T. Emileという4人。なんでも、05年晩秋、シアトルにて結成。当初はアート・ディレクターのH×J×M(G/17歳)とノヴェリスト兼アクトレスのChigilla(G、Vo/13歳)のベッドルーム・ミュージック(宅録)・ユニットとしてスタートしたが、その後、市内の自然食レストランで出会ったNon(B/15歳)とGAPのアウトレット・ショップで出会ったT.T.(Dr/15歳)が加入して現在に至っているという。地元シアトルを中心に活動しているが、日本のコミックにも造詣が深く、しばしば日本に観光でやってきているそうだ。
 おまけに、全員が冗談でEmile姓を名乗り義兄弟バンドをうそぶいている。うーむ、怪しい。だが実際にこのEmile、メンバー全員同じ姓を名乗っていたラモーンズへの愛情を持ったバンドのようで、ラモーンズがパンク・バンドという枠に終始せず、「ドゥ・ユウ・ウォナ・ダンス?」や「カモン・レッツ・ゴー」をカヴァーしたり、フィル・スペクターをプロデューサーに迎えてアルバムを制作していたように、彼らもまた50年代~60年代のポップスへの愛情を見せてくれる連中のようだ。一見、かなりトラッシュ感の強いガレージ・ロックだが、メロディそのものはおそろしくポップでキッチュ。Chigillaの舌足らずなヴォーカルの魅力もあいまって、まるでオルタナ時代にロネッツやシュープリームスが甦ったような、あるいはニール・セダカやキャロル・キングが現在のガレージ・バンドに曲を提供したようなサウンドになっているのがわかる。言わば、バブルガム・ガレージ・ポップ。さほど緻密なアレンジにこだわらず、あくまで曲そのもの、演奏の純度そのものを生かしたシンプルな仕上がりになっているあたり、最初はK.O.G.A.レコードから出たコンピレーションに参加していたというのにも納得がいく。
 ただ、その一方で、もっとブラッディーでヴァイオレントなタッチもそこかしこに感じられるのも魅力で、このあたりはヴェルヴェット・アンダーグラウンドからソニック・ユースに至るニューヨーク・アンダーグラウンド・シーンの流れを彷彿とさせるものだ。そう考えると、このEmileは一見オルタナ以降の視点でポップスに向き合ったバンドのようだが、それが転じて“ポップなもの、甘いものには毒がある/毒のあるものはポップである”という捩れたフィロソフィーを持ったバンドではないかとも思えたりする。
 そんなEmileのスケジュールを見ると、最近はなんだか都内のライヴ・ハウスにかなり頻繁に出演しているようで、実際にそのライヴを見た人に言わせると、on button downの小林ハジメと、小説家の千木良悠子、スポーツマンというバンドの高原徳子、ルミナス・オレンジ/スワームスアームの舘山裕之と大変よく似た4人がステージに立っていたとのことである(笑)。そういえば、以前、小林は『猫殺しマギー』や『青木一人の下北ジャングルブック』などの著書を持つ小説家/女優の千木良悠子とバンドを組むかもしれない、なんてことを話してくれたことがあったが、よくよく考えてみたら、結局これってシアトルのバンドなんて真っ赤なウソ、要は小林の新しいバンドなんじゃないの?なんて思ったりもして。どうなのよ、小林ハジメ。
 アート・ディレクター/デザイナーを本職にしつつ、on button downとしての活動もコンスタントにこなしている小林は、一方でNATSUMENやパニック・スマイル界隈とも親しくしていてとても顔が広い。最初に目的を置くのではなく、気がついたら夢中になって何かをやっていたというように気軽に行動を起こす小林は、いつだって周囲の仲間達とまるで我を忘れて遊ぶような感覚で無邪気に音と戯れる。このEmileは、もしかするとそんな小林の新たな“愉しみ”なのかもしれない。もちろん、何の確証もないけれども。


2006年6月19日
岡村詩野/Shino Okamura
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